なぜおじさんは歩きながら屁をこくのか

 街を歩いていると、前を行くおじさんが、ぶっ、ぶっ……って細切れに屁をこく姿をたまに見かけます。えっ、見かけませんか? 僕はよく遭遇するんだけどな。ま、とにかく、僕はそれを見てはいつも、「なんで、おっさんは、歩きながら屁をこくんだろう」って不思議に思っていたんです。でも、昨日、自ら体験することによって、その謎がわかった気がしました。

 僕の住んでいるところは、田舎という文字の通り、田んぼと住宅の入りまじった土地です。稲刈りもとうに済んだ田地は、藁混じりの焦げ茶色の土がモコモコとしていて、まるで排泄物を思わせるそれは、役目を終えた田んぼの素朴な情緒を醸し出しています。そんなのどかな田舎道を、僕はレジ袋を手に歩いていました。

 家まであと半分といったところだったと思います。急に、僕はおならをしたくなりました。そう大きくないと思われる空気のかたまりが、直腸の出口に集まっているのが感覚でわかります。それは、歩く振動に合わせて肛門をノックしてきました。二十代の若い僕だったら、たぶん我慢できていたと思います。肛門括約筋がキュッと引き締まり、力強い抵抗を見せていたことでしょう。しかし、僕はもうおじさんと呼ばれる年齢です。お尻に力を込めて押しとどめようとしましたが、肛門括約筋はあっさりと降伏を申し出てきました。

 僕は後ろを振り向いて誰もいないことを確認しました。それから前を向いて、ブッ、ブッ……。歩きならが屁をこきました。そうしてスッキリした気持ちで、しばらく歩いていたときに自分の状況に気づいたのです。「あっ、おっさんが歩きながら屁をこいてる!」って。

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